
公募に挑戦するにあたっては、作品内容だけでなく「原稿の書き方」も劣らず重要です。
誰もがまずは審査のスタートラインに立たねばならず、それは応募規定に沿って書けているか、原稿の使い方の一般常識を守れてるかで左右されてくるからです。
応募規定を守って初めて審査員に届く
応募というと小説の中身にばかり頭がいってしまいますが、原稿表記のルールを守れていないと、そもそも審査対象として見てもらえなくなるリスクがあります。
原稿はまず編集者や下読みが目を通しますが、この際に最初にチェックされるのが、表記や応募規定が守られているかどうかです。
あまりに原稿作法が守られていないと「作品」として認識されず、審査員の手元に届く前にハネられるわけです。
どんなに素晴らしい傑作でも審査対象としてみなされないと勝負ができません。
精魂込めて作った作品を無駄にしないためにも、原稿の書き方の基本は押さえましょう。
基本は縦書き
参考書や学術書を除くと日本の本は大半が縦書き表記です。文学賞を主宰しているのはほとんど出版社や文芸雑誌で、印刷・出版されることが前提になってることが多いです。当然縦書きが主流となります。
「小説家になろう」や「カクヨム」などの投稿サイトやネット上のブログは横書き表記が多いですが、その意識のまま横書きで出すと、最悪受付拒否などの痛い目にあうかもしれません。
文学賞はまだまだ縦書きが多数派なので、横書き派の人は必ず応募要項をチェックしましょう。
原稿を完成させるまでは横書きだとしても、完成した暁には縦書き表記で体裁を整えることが必要になります。
数字・記号・段落、フリガナのチェック
横書きで完璧に仕上げたからといって原稿をそのまま出すのは要注意です。
縦書きへの書式変更に伴う表記のズレがよく見られます。特に多いのが数字の向き、記号表示、フリガナなどについてです。
【数字の向きの修正】
縦書きに書式変更すると、数字が倒れた状態になることがよくあります。
年齢や学年の表記、第〇章などがおかしくなっていないかチェックしましょう。こうした場合は縦書きに合うように漢数字にするとか、Wordソフトなら拡張書式の縦中横を使って修正します。
——————————————————————————————————————
※「縦中横」機能での数字の修正方法
向きがおかしい数字を選択→「ホーム」タブ→「段落」の「拡張書式」→リスト内の「縦中横」を選ぶ。「プレビュー」で正しく修正されてるかを確認して「OK」。
——————————————————————————————————————
【縦書きに合った記号表示とフリガナ】
記号表現を多用している場合は特に注意が必要です。
例えば引用符は横書きと縦書きでは異なりますが、書式変更で自動的に変わりません。自分で修正する必要があります。
また縦書きだとまともに記号が表示されないケースも出てくるかもしれません。
フリガナも書式変更だと元のフリガナが消滅してるケースが多いです。
文字の読みが重要な役割を果たしてる作品だと内容の質にも関わってきてしまいます。横書きで完成させた際はそれで安心せず、縦書きでの表記もどうなるかを確認しておきましょう。
表記も推敲して初めて完成
締切ギリギリで文章を推敲する人は、書式変更のことを頭に置いておく必要があります。
なぜなら縦書き書式に変更すると、思いもよらぬ箇所に異常が出てきたり、修正が多すぎて意外に時間がとられることがあります。
出す直前に印刷して原稿の異常に気付き、また修正をやり直して締め切りに間に合わなくなるケースも少なくありません。
横書きで文章を仕上げる人は、締切までの時間配分で書式変更の仕上げのことも忘れずに置きましょう。
原稿の表示規定に注意する
これは特にワープロ原稿の場合に重要ですが、原稿一枚あたりの文字数と行数に注意しましょう。
公募によって30文字✕40行、40文字✕30行など表示規定が微妙に異なることがあります。
一般の公募雑誌だと大まかな募集要項だけで詳細を省いてあるケースがあります。必ず公式の募集要項を確認しましょう。
文字のポイント数
まずは応募要項に指定があればそれに従います。無ければ「見る人が読みやすい」を心がけて常識的なサイズにしましょう。
極端に小さすぎても大きすぎても読み辛くなるので、基本は10~12ポイントの間で調節しましょう。
一行あたりの文字数の指定がある公募なら、まず行数を設定し、上記のフォントサイズの中で見やすくなるように調節していくわけです。
奇をてらったりマイルールを押し通して読みづらい原稿になってしまうと好ましくありません。
よくあるのが文字がびっしりと、小さすぎて読みにくいといったものです。逆に文字を極端に太くしても拙い感じになるので、一般的な読みやすいポイント数に仕上げて読む人に余計な負担をかけないようにしましょう。
基本ワープロ原稿では文字の大きさ=ポイントは「一行あたりの文字数」を基準に調節します。
一般的に一行30字、40行が多いですが、公募によって文字数が違うので、文字サイズも一概に言えないところがあります。「全体の読みやすさ」を第一に考えながらフォントサイズを決定し、余白、行間も整えて体裁を作っていきます。
ページ番号の表記
手書き、ワープロどちらでもページ番号を必ず読みやすい場所に表記しましょう。
一般的にはページ下部の真ん中か、めくった時のことを考えて原稿の綴じた上隅の対角線の下部が好ましいとされます。
応募要項でページ番号について記載が無くても、長編では付加した方が良いです。
その方が読み手に親切ですし、プリントアウトして審査する場合、事故で原稿がばらけたりすると、元の正しい順序が分からなくなるケースがあるからです。
■日本語文章ルールの基本
ネット上の文章では縦書き表記のルールと真逆の場合もあります。原稿執筆の際はその点に注意してください。
【文頭は一文字開ける】
ネットの文章は文頭を空けないのが標準ですが、原稿の文章としては文頭を一文字空けるのが鉄則です。
図1を見てください。
このような感じで、一マス分空けます。学校で習った作文のルールに似ています。
見本の原稿にも一マス空けているところは 色をつけています。
【一マスに一文字が鉄則】
必ず原稿用紙のマス一つに一文字です。
「当たり前」と言われそうですが、パソコン上では半角で処理されることがあるので注意が必要です。
数字・記号・スペースなどが気付かずに半角になることがあります。
スペースでもきっちり全角にするように意識しましょう。
Wordであれば、編集記号を表示するように設定して、全角になるよう注意するのも良いです。
Wordで編集記号を表示させるには、ホームから段落の右上あたりの矢印のマークをクリックしてください。
【記号を文頭に置かない】
、。などの句読点。!、?などの 感嘆符、疑問符などの文章記号が文の頭に来てはいけません。
—————————————-
例)
。このような文章になります。
—————————————-
前の行の文章に「、」や「。」が入ると字余りでそのような表記になることがあります。
Wordなどのワープロソフトなら自動的に修正してくれますが、誤った表記になるのもあるので注意しましょう。
【会話文の終わりの「。」は省略】
会話文のカギ括弧の文頭は一マス空けてはいけません。
登場人物のセリフの部分のカギ括弧「」の最後の句点。は省略します。
—————————————-
例)
「困りました。どうしましょう」
—————————————-
となります。
※学校で習った作文や一部の人では最後の文でも「。」は省略せずに書くこともありますが、基本は省略します。
【!と?の後には1マス空ける】
感嘆符と疑問符をつけたら、一マス空けるのがルールになっています。
—————————————-
例)
困りました! どうしましょう? というです。
—————————————-
【余韻や言葉に出せない気持ちを示す三点リーダー】
—————————————-
例)
「そうなの……」
彼女は黙り込んだ。
—————————————-
のように登場人物が言葉に出せない気持ちや余韻を示す点点点と表現しますが、この表記に使うのは三点リーダーと言われる「…」のみです。 、、、、も・・・・・も‥‥も不可となります。
この三点リーダーを2マス使って「……」と表記します。
※長めの無言を示す際は3~4マス使う人もいますが、基本は2マスです。
パソコンでの出し方は「さんてん」で変換するか「・」を打ち込んで変換する手もありますが、辞書機能で「・」や「さんてん」で二マス分出るように登録しておくのも便利です。
(Macだと「・」「てん」で変換するか、option+「れ」で出る)
【「……」の後の句読点は自由。文章に合わせる】
「……」を使って余韻を持たせても会話や文章が続く場合、句読点を付けることは可能です。この点については明確なルールは無いので、文章の流れや自分なりに合うように工夫しましょう。
—————————————-
「そうなの……。でも構わないわ」
「そうなの……でも構わないわ」
「そうなの……、でも構わないわ」
「そうなの…… でも構わないわ」
—————————————-
【間(時間の経過)、引用や中断を示すダッシュ記号の二マス】
「そして――」 「雨の中――」「ーーアインシュタイン」のように時間の経過、行動の中断、引用などを表現するには、「—」というダッシュ記号を2マス繋げます。
【『』二重カギ括弧の使い方】
二重カギ括弧の「『』」は主に作品タイトルや書名や、会話文中でさらに誰かの話を表す際に使います。
必ず括弧一つにつき一マス分使います。
・作品タイトルや書名
例:『シャーロック・ホームズの冒険』 『ブランデンブルク協奏曲』
※本一冊に何篇か入っていて、その内の一つの作品について述べる時は、全体のタイトルを二重カギカッコ、個々の作品をカギ括弧にするという書き方もあります。
例:『O・ヘンリ短編集』に収録されてる「賢者のおくりもの」についてですが~
ただしこれについては厳密なルールではありません。人によってまちまちなところがあるので自分なりに使い方を決めましょう。
・会話文中の例
「田中さんはこの森を見て『なんて美しい緑だ』って言ってましたよ」
【幼稚な記号表現は使わず言語化する】
漫画やバラエティ番組の字幕などでは、言葉にならない言葉や複雑な気持ちを「◎△%※§✗б」などと記号表現で表わすことがあります。他にもネットやメールなどでは(笑)(汗)や絵文字などもよく使われます。
あえて理由あってそうした表現を使うならともかく、普通の小説で安易にそうした記号表現に頼るのは好ましくありません。審査する側に稚拙と見られることもあります。
できるだけ言語化して表現しましょう。
原稿はパソコンで書こう
原稿は基本パソコンで書くのをおすすめします。
もちろん「手書き原稿OK」と要項に書いてある文学賞は受け付けてくれますが、どんなに字が整っていても読みやすさはワープロ原稿にはかないません。
手書き原稿と言うだけで敬遠されたり賞によっては受付拒否されるのももったいないです。
プロ作家でも林真理子さん、浅田次郎さんなどは手書きだそうですが、全体から見ればとても少数で、大半のプロ作家はパソコンで執筆しているそうです。
手書きの文字を活字に起こしてくれる人はなかなかいませんし、細かな修正も利きやすいので、パソコンで執筆した方がいいでしょう。
小説執筆におススメのツール
『KINGJIM Pomera』
小説執筆におススメなツールとして挙げたいのがKING JIMのPomeraシリーズです。
文章作成にのみ特化した電子ツールとなります。
Pomeraのすごいところは文章しか書けないところで、言ってみれば印刷機能のないワープロのようなものです。パソコンと違って起動するまでの時間が短いのですぐに執筆に書かれます。
出先でちょっと構想のメモ書きをしたい時、文章の断片を貯めておきたい時にも便利です。
Pomeraは文章作成に特化しているので他のことに気が散りません。ついついパソコンだ動画やネットサーフィンをしまうとか、締切が差し迫ってるといった場合、あえてPomeraを使って全力で執筆に集中するのもいいかもしれません。
最上位機種になると細かく章立てができるアウトライン機能、類語・国語辞書を備え、縦書き表示も可能など、文章作成の支援ツールも充実しています。
ちなみにポメラは吉本ばななさんや羽田圭介さんなど、プロ作家も愛用しているそうです。
スマートフォンの音声入力機能
スマートフォンの技術革新も日進月歩で、音声入力機能も非常に高いレベルにまで達しています。
しかも何種類も揃っていて自分にとって一番使い勝手の良いのを選べますし、日々バージョンアップで進歩していっています。
音声入力の良い点はスマートフォンがあるならほぼ無料で使える点です。
中には有料のものもありますが、無料アプリも多数揃っていて機能もそうそう見劣りしません。
高いパソコンやツールが懐に痛いという方は音声入力を試してみましょう。
多少音声感知や誤変換の問題はありますが、昔と違ってAI機能も進歩し、音声入力も非常に洗練されてきており、ハキハキと通る声で喋るとそれなりの文章ができあがります。
【外出先で手軽に文章を作れる】
スマートフォンの音声入力を使えば外出先でも文章作成が簡単になります。
ともすれば小説執筆は屋内にこもりがちで、運動不足などの問題も引き起こします。また出先だと何かアイデアを思いついてもとっさにメモやツールが用意できない、執筆に移れない場合もあります。
スマートフォンの音声能力を上手に使えばこうしたことに対処できます。
軽く持ち運べる携帯なので、外で軽くウォーキングしながらも入力できますし、疲れて机に座る気になれない時も寝転んで執筆ができます。外で日差しを浴びてリラックスしながら小説も書ければ、気分転換にもなるし、長時間座ることによる腰痛などの不調も避けられます。
他にも車の運転中で手を離せない時にも使いやすいです。市販の携帯を支える道具を使えば片手をハンドルから離す必要もありません。
【スキマ時間を使って文章を準備できる快適さ】
入力後はちょっとした細かい推敲は必要になるでしょう。しかし文章のあらましができあがってると執筆もかなり楽になります。何より構えて机に座って作業するのが苦手な人や、多忙でまとまった時間が取れない人にとってはお勧めです。
「口で喋って文章がちゃんと出来上がるだるのか」と疑問に思われる方もいるかもしれませんが、昔から有名作家も口述筆記をよく利用しています(谷崎潤一郎や志賀直哉、太宰治など文豪も口述筆記で本を仕上げることがありました)。
『超勉強法』などのベストセラーで有名な野口悠紀雄氏も音声入力が非常に有用だと勧められていますし、科学雑誌『ニュートン』を創刊した地球物理学者の竹ノ内均先生も、スキマ時間を使って文章の細切れを作っておいたおかげで、多忙な中でも何十冊の著作をものにすることができたと述べられています。
細切れの時間の有効利用にはぜひとも音声入力がお勧めです。
意識して日本語の教養を身に着けよう
小説の新人賞の応募原稿では、内容以前にまともな文章になっていない原稿が多いそうです。
まず審査員に理解される文章にならないとスタートラインに立てません。
正しい表記のしかたを覚えたら、今度は国語の作文力を見直してください。
小説の執筆に最低限必要な国語力は中学校卒業レベルで十分と言われています。
まず誰が読んでも通じる文章を書けるようになって初めて内容が審査される段階に移れます。
文章力は即席に、一朝一夕には身に付きません。
常日頃から日本語の教養を高め、正しい文章を綴れるように意識して研鑽に励みましょう。
参考書籍
『くもんの中学基礎がため100% 中学国語文法編』くもん出版